イタリアン・ハンドメイドの雄 BBR
2011.08.01モデルカー人物伝
手作りの1/43スケール・モデルカー、所謂『スペシャル・モデル』のマーケットも、ここ10周年ほどで随分と様変わりをしました。
元来このカテゴリーは、『キット』と『メーカー完成品』の2本立ての商品体系という特質があって、更にその『キット』をベースに非常に繊細な『作品』として仕上げる『モデルカー・ビルダー』或いは『フィニッシャー』と呼ばれる方々もいらっしゃる世界でした。バブルの頃には、我が国の大都市圏には複数のスペシャル・モデル専門店があって、ショップさんごとにフィニッシャーや作家さんを抱えているという図式もありました。
作家ものとなると、門外漢には信じられないような高価格帯のものも少なくありませんでしたが、実車にもそれなりの金額を投下するエンスージァストの方々の多くは、そうした凝ったモデルも嗜むという傾向が当時はあって、今にしてみれば正にバブルなのですが、多くの高額な作家もの完成品が飛ぶように売れていたのです。
栄枯盛衰。しかしそんな時代はとうに過ぎ、かつてはスペシャルモデルの十八番だったマイナー車種を題材に選ぶコンセプトや、レジンといった少量生産に適した素材の普及、中国をはじめとするアジア圏での大量生産が定着し、例えば『スパーク』のようなブランドのデキの良いモデルが5,000円オーバーぐらいで買えるようになると、スペシャルモデル自体の存在意義が市場的にはやや不明瞭に見えてきて、多くのキット・メーカーが廃業するといった事態を招きました。
実際のところ、スペシャルモデルの第一の良さはイタリア、フランス、イギリス、日本と言ったクルマ文化が定着した国の製品であって、お国柄、メーカーごとの表現の個性も意義深いものだったはずだから、クルマ文化不在の中国製の安い代替品で良いという発想自体が趣味人としては情けないと思うのですが、現実には安い代替え品が勝利してしまうのですね。まぁミニチャンプスやスパークは中国やマカオでの生産であっても、元来はドイツやフランス系の血脈を持つものですから、一概に否定することはできないのですが。
そんなわけで、ハッキリ言えばかなりメーカーも減ってしまったスぺシャル・モデル世界ですが、往時から一貫して、ほぼナンバー1の座に君臨してきたメーカーは健在です。イタリアの『BBR(ビービ―アール)』がそのメーカー。
私は往時も現在も、月刊『モデル・カーズ』誌のスペシャル・モデル新製品のページを担当させて頂いているのですが、やはり色んな視点から平均点を出すと、BBRというメーカーのパフォーマンスは一番かも知れないと思います。
例えば同じイタリアのメーカーなら『MRコレクション』『ルックスマート』『タメオ』『テクノモデル』があります。この中で今現在一番面白い製品を出しているのは『テクノモデル』だと思います。紙箱、バックスキン調の皮革を使ったディスプレイ・ベース、車種の選び方、そして手作りの温もりを残したイタリア国内フィニッシュ、という重要なポイントがあります。『タメオ』はF1専門ですが、そのリアルな出来栄え、透明ベースに金属の車名プラークをリベット留めする演出など、センスが光っています。みなそれぞれに良さはあるワケです。しかし、マクロ的に俯瞰してみると、BBRが頭一つ抜けているという印象は拭えません。あらゆるポイントが非常によく考え抜かれており、全体の演出のセンスに長けていると言えます。
そんなBBRの代表と1997年頃でしょうか、お会いしたことがあります。南青山『メイクアップ』の植本代表のご厚意で、モデル・カーズ誌の為のインタビューを実施させて頂きました。画像はそのときのものです。左が同社バレストリーニ代表、右が同社リアリ代表、中央が私。いろんな話を聞けた記憶があるのですが、この人達はビジネスマンだなと強く感じたことを覚えています。しかしただのビジネスマンではないのです。アーティストの感性をも備えたキレ者なのです。
“日本で一番売れる車種はなんですか?”と逆に質問されて、
“歴代のスカイライン GT-Rなら間違いない”
というような返答をしたら、バレストリーニ氏が真剣な表情で植本氏に確認していたことを思い出します。
その後ずいぶん経ってから、BBRが作った 『34GT-R“ニュル”』を見ましたが、非常に彫刻的なボディの表現に実車からは感じれない色気があって、流石イタリアのメーカーだと非常に感心しました。多分あまり話題にはならなかったと記憶していますが、あれは傑作だと今でも思います。
既に30年近くの長きに渡ってスペシャルモデル世界に君臨するBBR。その牽引者たるバレストリーニとリアリは模型自動車史に残る人物だと言えましょう。