映画『ウィークエンド・チャンピオン 〜モンテカルロ 1971〜』試写感想

2015.03.26イベント取材 モータースポーツ

 ユーロピクチャーズさんとエクスペアードさんの御厚意で、若き日のジャッキー・スチュワートにフォーカスしたドキュメンタリー映画『ウィークエンド・チャンピオン 〜モンテカルロ1971〜』を試写させて頂いた。

 この映画はスチュワートの友人で、モータースポーツの大ファンだったという映画監督ロマン・ポランスキー(1969年に妻で女優のシャロン・テートをチャールズ・マンソン率いるカルト集団に惨殺された悲劇でも知られる)がプロデュース、監督はドキュメンタリーが得意なフランク・サイモンに委ね、ポランスキー自身はスチュワートと共にスクリーンに登場する。

 舞台は1971年のモナコGP。練習走行から、予選、決勝と、カメラはモナコの週末に於けるスチュワートとその周辺を追い、時にポランスキーとスチュワートの会話(ポランスキーの質問に対してスチュワートが解説するパターンが多い)、スチュワートの妻であるヘレンのコメント(如何にヘレンがスチュワートを気遣っていたかがわかる)等も交えながら進行して行く。

IMG_0080

 マシーンに乗り込む直前に御大ケン・ティレル(タイレル)と耳打ちのように素早くかわす会話、愛弟子であったセベールに対してガレージ内でマシーンのセッティングを伝授する会話、メカニックにマシーンの不調を具体的にうったえる会話、出走前に神経が昂ったスチュワートをヘレンが静かに見守る様子、ヘレンと親友ニーナ・リント(この前年に事故死したヨッヘン・リントの未亡人)との関係に関する言及など、これまでに見たどのフィルムよりも、そうしたディテールが際立っており、よりサーキットで生きる人間たちの気持ちや関係性が浮き彫りになっている。まずはその意味で、当時のグランプリに想いを抱く向きなら必見。そしてドキュメンタリーとしての核は、映画中盤、ポランスキーに語ったスチュワートの想い。

“マシーンに乗り込むと麻酔を打ったように全てを忘れる。時折麻酔が切れると冷たい世界に気づく。
再び麻酔が効き始めると、あたたかな世界に戻れる”

 常に人懐っこい笑みを浮かべ、最も高いパフォーマンスを安定維持するチャンピオンであり、美しいヘレンとおしどり夫婦だったスチュワートの言葉としてはあまりに意外であり、モノローグのように聴こえるその言葉たちは哀し過ぎて、私の胸に沁み込んで来た。

 更にこの映画の白眉は、終盤に至って40年後のスチュワートとポランスキーが、当時泊まったホテルの同じ部屋でこのフィルムを見ながら当時を回顧、現代のグランプリの安全性などにも言及する場面。幼少時から波乱の人生を歩み続けているポランスキーと、2011年に失読症(文字情報を理解できず、読み書きが出来ない学習障害。脳の使い方が常人とは異なると言われている)をカミングアウトしたスチュワート(彼はこれが原因で学校に通うことを諦めた。このフィルムを撮った当時はヘレンにさえそれを隠していたという事実に驚く他ない)。

 一見全く畑違いの相容れない組み合わせに見えるが、楽しげで軽妙な遣り取りは彼らを繋ぐものが確実にあったことを感じさせる。これはレースの映画だが、彼ら二人の友情の根底を為すもの、それに気づくことこそ鍵だと思う。

 映画の評論など不慣れゆえ、情けない駄文が長くなってしまったが、とにかく見応えのある映画だった。是非多くの方々にご覧頂きたい。

 なお公開は2015年初夏、渋谷シアター・イメージフォーラムにて、モーニング&レイトショーとのこと。
 どうぞお楽しみに!


イベント取材 モータースポーツ